俺は武具である(前編)



 俺は武具である。名前はまだない。
 どこで生まれたか、おおよそ見当がつかぬこともない。なんでも、薄暗いじめじめしたところで大木の一枝であったことだけは記憶している。俺はここではじめて蒐集者というものを見た。しかもあとで聞くと、それは九蓋という、蒐集者中でいちばん下っ端の蒐集者であったそうだ。この九蓋というのは、しばしば闇雲に突っ込んで重傷を負うという話である。しかしその当時はなんという考えもなかったから、べつだん恐ろしいとも思わなかった。ただ奴の手につかまれてガシッと持ちあげられたとき、これからこいつの精神を支配してやるのだと考えたばかりである。
 つかみ上げられてすこし落ちついて九蓋の顔を見たのが、いわゆる蒐集者というものの見始めであろう。このとき俺はついてないなと思った感じが今でも残っている。だいいち髪はぼさぼさで顔は厳つくて、まるで可愛げがない。その後他の武具にもだいぶ再会したが、こんな男に使われている奴には一度も出くわしたことがない。のみならずつっ込まれたコートのうちポケットの中があまりにむさ苦しい。それで、ポケットの中からときどき顔を出してぶはぶはと息を吸う。そうでもしなければどうも咽せぽくて、実に弱った。これが九蓋がろくに洗濯もせず愛用しているコートであることは、ようやくこのごろ知った。
 この九蓋のコートのうちポケットで、しばらくはあまりよくもない心持ちにすわっておったが、しばらくすると非常な速力で運転しはじめた。九蓋が動くのか自分だけが動くのかわからないが、むやみに眼がまわる。胸が悪くなる。とうてい助からないと思っていると、「やはり戦うしかないらしい」と声がしてやっとコートから外に出された。そのあと九蓋が黒いのを受け止め損ねたところまでは記憶しているが、あとはなんのことやら、いくら考えだそうとしてもわからない。
 ふと気がついてみると九蓋は血を吐いていた。九蓋のほかに二人おった蒐集者は呆然として突っ立っている。肝心の上位種は二人に増えていた。そのうえ、上位種同士で争っている。割り込む隙もないくらいだ。はてな、なんでもようすがおかしいと思う間もなく、のそのそはいだした九蓋が突っ走った。非常にイタイ。俺はこの無謀につき合わされながら急に九蓋の恐ろしさを悟ったのである。
 ようやくの思いで半身の黒い上位種に一撃を与えるも、向こうの一撃の方がはるかに大きい。俺は「その命・・・我が肉体の糧としてやろう!!」とむかってくる上位種を前に、どうしたらよかろうと考えてみた。べつに、これという分別も出ない。しばらくして、ひょっとしたら蛇合眼の蒐集者が助けにきてくれるかと考えついた。あのパンツ一丁の少年が「あの人は、仲間を見捨てたりしないと思うけど・・・」と言っていたはずだと、こころみに待ってみたが、だれもこない。そのうち「まずはお前を傀牙にして、その命を取り出してやる!」と上位種が目と鼻の先まで迫る。腹が非常にたってきた。泣きたくても涙が出ない。しかたがない、あの蛇合眼はそういう奴だと断念をして、そろりそろりと九蓋の様子をうかがう。どうも非常に苦しいらしい。そこをがまんして無理やりに立ち上がろうと、ようやくのことで体をおこしたが、「さあ・・・傀牙の種を食らうがいい・・・」とまで追いつめられ、とてもまにあわない。あれを食わされたら、九蓋は傀牙になると思って俺は覚悟した、まさにそのとき天からパンツ一丁で助けが、幹人が俺と九蓋をかばって立ちはだかったのである。縁はふしぎなもので、もし幹人がパンツ一丁で立ちはだかってくれなかったなら、俺は九蓋の精神を支配するどころかついに路傍に打ち捨てられ朽ちておったかもしれんのである。パンツ一丁のお蔭とはよくいったものだ。幹人は今日にいたるまで、俺と九蓋を助けてくれるときはパンツ一丁である。



後編へ