俺は武具である(後編)



 俺が九蓋の手にわたってからというもの、九蓋はもとよりそれ以外のものにも、はなはだ不人望であった。「オレニマカセロ・・・」といっても「ヨセ!チカヨルナ!」といってもはねつけられて、相手にしてくれ手がなかった。いかに珍重されなかったかは、今日にいたるまで名前さえつけてくれないのでもわかる。俺はしかたがないから、できうるかぎり唯一俺を可愛がってくれる幹人のそばにいることをつとめた。朝幹人が朝食をとるときは、かならず彼のひざの上に乗る。彼が昼寝をするときは、かならずその背中に乗る。これはあながち幹人にやましい気持ちがあるというわけではないが、別にかまい手がなかったから、やむをえんのである。
 その後いろいろ経験のうえ、朝は幹人の食卓の上、夜は幹人の荷物の上、天気のよい昼は九蓋のコートを虫干しがてら窓際へ寝ることとした。しかしいちばん心持ちのいいのは、夜に入って幹人の寝床へもぐりこんで、いっしょにねることである。幹人のといっても正しくは幹人と蛇合眼ので、夜になると二人が一つ床へはいって一間へ寝る。俺はいつでも彼らの中間におのれを容るべき余地を見いだして、どうにか、こうにか割りこむのであるが、運悪く蛇合眼が眼をさますが最後、大変なことになる。蛇合眼は――ことに幹人が「今夜はダメ」と言った日は質がわるい――お前の武具がきやがったお前の武具がきやがったといって、夜中でもなんでも幹人が眼をさまさないくらいの声で九蓋をたたき起こすのである。すると例のヘタレの九蓋はかならず眼をさまして、次の部屋から飛びだしてくる。現にせんだってなどは、蛇合眼の六刃で九蓋ともどもひどくたたかれた。



 陶然とはこんなことをいうのだろうと思いながら、きりもなく、そこかしこと地中からはい出てくるような、湧いて出てくるようなありさまの、種のない儡牙を手当たりしだいになぎ倒してゆくと、なんだかしきりにこれまでのことを思い出す。寝ているのだか、斬り裂いているのだか判然しない。眼はあけるつもりだが、重いことおびただしい。こうなれば九蓋まかせだ。五十匹だろうが、百匹だろうがなんとかするだろうと、九蓋が両手をバハッと前へ交差させたと思うとたん、ドキャアッと音がして、はっといううち、――やられた。どうやられたのか考える間がない。ただやられたなと気がつくか、つかないのに、あとはめちゃくちゃになってしまった。

「ククク・・・」

「オマエ ハサイゴマデ オレノシハイヲ ウケナカッタ。」

「オマエナラ・・・」

「アイツヲ・・・」

 次第に俺はぼろぼろと崩れてゆく。なぜ、はじめの心づもりとはこうも違う終わりにゆきついたのだか見当がつかない。思うより九蓋がしぶとかったのだか、幹人が俺に思いとどまらせたのだか、判然しない。どこでどうしてこうなったのだとしても、かまいはしない。ただ少しは幹人の力になったろうか。否、幹人が俺に与えてくれたものを思えば、その半分すらも返し得てはおるまい。傀牙の種をえぐり出し、儡牙を粉砕して、俺は俺の役目を終えただけだ。俺は死ぬ。死んでこの大地にかえる。だが九蓋よ、お前はまだ死んではならぬ。せいぜい生きて、俺の分も幹人に借りを返せ。頼んだぞ、相、棒――・・・・。



了 [ 2005/11/05 ]



・ 後書き ・

志なかばにして散ったライバルの如き科白を遺して逝った九蓋さんの武具に捧ぐ。